9.家族にできること、できないこと

家族は、摂食障害の原因ではない

はじめに、強く心に留めておいていただきたいのは、家族が摂食障害の「原因」ではないということです。

「回復のためにはご家族は○○した方がよい」というアドバイスをさせていただくと、「○○しなかったのがいけなかったのだ」「○○が病気の原因になったのだ」とご自分を責める方がいらっしゃいますが、それは違います。

摂食障害は、家族の接し方だけで発症する病気ではありません。

特別な配慮が必要な患者さんが多い‐「普通」の接し方ではうまくいかない

とはいえ、摂食障害の回復にはご家族の対応がとても重要な役割を果たします。

なぜなら、患者さんには特別な配慮が必要で、他の人やきょうだいであれば問題ない「普通」の親の接し方ではうまくいかないことが多いからです。

例えば、お子さんのなかには、皮膚の感覚が生まれつき異常に敏感な方がいます。普通にポン、と肩に触れるだけで、まるで「普通」の人が強く殴られたときのような痛みを感じるのです。

このような方に、親や周りの人が「普通」に接するのは、その子にとっては辛いことなので、特別な配慮が必要です。

それと同じように(ただし、ずっと周囲に分かりづらいのが難しいところですが)摂食障害を発症する方の中には、特別な配慮が必要な方が多いのです。

私どもが感じるのは下記の特徴です。

特別な配慮が必要な患者さんの特徴

過敏さ 他人の気持ち・人目・不安に対して
鈍感さ 自分の気持ちや負担に対して
不器用 強迫性・完全主義・バランスの悪さなど

まず、他者に対しての敏感さです。例えば、ごく幼いころから、最も身近なはずのお母さんに対してでさえ「こんなことして嫌われないかな」「私が迷惑をかけて大丈夫かな」と気を遣い、自分の気持ちを抑えるような過敏さを持っている方が多いです。自分が人からどのようにみられるかも過剰に気にします。

また、「不安」な空気にも過敏で、「人に悪く思われたらどうしよう」「良い就職できなかったらどうしよう」「親に何かあったらどうしよう」など、他の人なら無視したり、仕方ないと開き直ったりできるようなことに対しても過剰に不安を感じます。

そして、逆に自分の気持ちや、ストレス・負担に関しては鈍感な方が多く、自分が本当に何がしたいかがわからなかったり、本音では嫌だと思ってもそれを抑え込んでしまったり、他の子なら疲れるようなハードスケジュールをハードだと認識できないこともあります。

また、不器用な方も多く、勉強はできるのに人間関係の暗黙のルールがわからない(空気が読めない)、勉強や課外活動など何事にも手が抜けない(強迫性)、なんでも完璧にやらないと気がすまず小さな失敗でも許せない(完璧主義)など、様々なバランスの悪さを持っています。

このような特徴を持っていると、複雑な今の社会で生きていくのは大変です。大人になるにつれ、ストレスが大きくなっていきます。ですから特別な配慮が必要なのですが、やっかいなのは発症するまで、「特別な配慮が必要だ」とは誰にも思えないことです(ご本人にも・ご家族にも)。

上記のような特徴は、幼いころはかえって協調性があり、まじめできちんとした「良い子」に見えてしまいます。しかし、一度発症したからには、「特別な配慮が必要なのだ」と認識し、その方に合った接し方に変えていく必要があります。

家族にできること

① 家庭を安心できる療養の場にする

自分は安全な場所にいる・守られているという感覚を与える

子供は、自分は安全で守られているという感覚が満たされてはじめて、頑張ろう、成長しようと思えます。この感覚を最も与えることができるのはご家族です。

・親自身が安定していますか?
・自分自身の人生を大切にする(幸せに生きる)
・自分自身の安定のための援助を得る

患者さんは、親のメンタルヘルスにとても敏感(過敏)です。だから、親自身が不安定な時は親を心配して頼れません。自分自身の人生を大切にして、幸せな姿を見せましょう。

もし親自身が不安定なら、親の会に参加したり、専門家の援助を受けましょう。誰かに愚痴を聞いてもらったり、息抜きもしましょう。まずは親自身が安定することが大前提です。

親が「心配性」だと、こどもは心配をかけられない

患者さんはよく、「親が心配するので親には言えない」と言います。「心配性」でおろおろしてしまう親に伝えると、心配や不安がますます増幅されるだけなので言いたくないようです。

「心配性」というのは、ただやみくもに不安になって、あれこれ考える事です。心配してもよいのですが、親が動揺する姿を患者さんにできるだけ見せないようになりましょう。

心配を心配のままにするのでなく、情報収集をして、冷静に、論理的に解決する姿勢が必要です。

例えば、患者さんが不登校になったとき、「引きこもりになったらどうしよう?」とただ心配したり、「そんなことじゃ将来困るよ」と患者さんを脅したりするのではなく、きちんと情報収集をして「高校認定試験もある」「いまどきはサポート校でもよい推薦があるから大丈夫」など現実的な選択肢をみつけて、まずは親が安心して見守れるようになることが大切です。

家族が「普通」の生活を送れるように工夫する

摂食障害の症状に家族が巻き込まれて、生活がめちゃくちゃにならないように工夫しましょう。患者さん以外の他の家族が、ストレスレベルを低くしてできるだけ普通の生活をすることも大切です。

家族環境は、ストレスの一つである可能性がある

摂食障害は、抱えるストレスが、その方のストレス対処能力を超えてしまったときに発症する病気です。回復のためには、当面のストレスを減らすことが必要です。

家庭は患者さんが多くの時間を過ごす場所ですので、その意味で家庭の環境は重要です。家庭の環境に患者さんにとっての大きなストレスがないか点検することは重要です(些細なストレスまで取り除くのは現実的ではありません)。

・家庭内に大きな問題がある場合
・可能なら、問題を解決するか取り除く
・本人と「問題」を切り離す
・子供を愚痴の聞き役にしない

家族がストレスの大きな要因の一つであれば、それを変える必要があります。例えば嫁姑問題が大きいなら、別居を検討するなどです。

しかし、時にはどうしても解決できない問題も発生するかもしれません。その場合は、それを患者さんと切り離すことが必要です。

例えば、両親の不仲が解決できず離婚の問題が持ち上がっている場合、「これはお父さんとお母さんの間の問題で、あなたのせいではない」ときちんと伝わる事が大切です。本人の前で喧嘩をするのではなく、家庭の外で話し合いを持ちましょう。

逆に、「あなたがいるから別れられない」と子供に問題を押し付けたり、子供を愚痴の聞き役にすることだけはやめましょう。子供に大きなストレスがかかります。

② 自己肯定感を育てる

患者さんが、「自分は自分でいいのだ」「ありのままの自分で、私は愛されている」という感覚を育てることも家族にできる事の一つです。それには以下のことが大切です。

・病気の事で本人を責めない
・本人は家族の前で本音を出せますか?本音を見せて甘えられるようにする。

せめて家庭の中では、本音で話し、甘えられる環境があると安心できます。本音を見せたとき、否定しないで、受け入れてみてください。また、本音を引き出してあげることも必要です。

例えば、友達と一緒に資格の勉強をして、本人は落ちてしまったのに、外来で「友達が受かって良かった」と言う患者さんがいました。鈴木Dr.が外来で、「本当は悔しくない?私だったら悔しいなー」といって初めて、悔しかったことを認めました。

その方は、小さい頃に先生が「他人のことを一番に考えましょう」と言ったので、悔しい気持ちを持っちゃいけないと抑えてしまっていたようでした。

今まで悪い感情を出してはいけないと押さえている方には、悪い感情を口に出せるようにさせてあげます。いやな気持を口に出せないから、体に出してしまうのです。

③ 共感的に話を聞く

相手が何を思い、感じているかを尊重して話を聞く
・何も言わないときは「○○かな?それとも○○かな?」と予測
・問題を、冷静に・対等に話し合う

④ 愛情や関心が伝わる工夫をする

言葉に出して伝える(なるべくわかりやすい言葉かけを)
・良いところをきちんと伝える・ほめる
・スキンシップで伝える

初めに述べたように、「普通」の接し方で、本当は相手に悪く思われているのではないか、人にどう見られているかと考えすぎる方たちです。「普通」の接し方では愛情を感じられないかもしれません。

だからこそ、良い所をきちんと認めてあげて、わかりやすく、たくさんの言葉つかって「愛しているよ、あなたが大事だよ、大好きだよ」と伝える必要があります。

抱きしめてあげる、マッサージなどのスキンシップも良いでしょう。特に35㎏を切るような低体重の時は言葉がなかなか通じないので、スキンシップがおすすめです。

これまでの接し方と今後の対応

回復に役立つ接し方は、患者さんの病気のステージや、今まで家族がどのように接してきたかによっても異なります。これまでの接し方別に、今後の接し方のヒントをまとめました。

過保護

本人が失敗しないように、うまくいくようにと親が先回りで本人を過剰に保護してしまうことの問題は、本人のコーピングスキルを磨く機会が少なくなることです。

このような場合は、心配でも自分でやらせてみて、それを見守ることが必要です。しかし、コーピングスキルが少ない場合、いきなり完全にフォローをやめると、子供は何をしたらいいかわからなくなります。少しずつ、手を引いていきましょう。

失敗をして、病気が悪くなるのではないかと心配する方もいますが、悪くなったら、病院にかかっているので、入院もできます。
失敗しても大丈夫と保証し、やらせてみて、失敗したら一緒に考えるという見守る姿勢が役立ちます。

過干渉

本人のために良かれと思って、あるいは子供にこのように育って欲しいという希望から、本人の決断や行動に口出しし過ぎるのが過干渉です。もしくは、子供が自分の分身のように思え、子供が違う価値観を持っていることを認められない場合もあります。

そうすると子供は、本来自分はどういう人間なのかがわからないというアイディンティティの問題を抱えたり、自分自身を認めてもらえないという不全感を感じたりします。

自分が過干渉だと考えている方は少ないようですが、患者さんが、「親が過干渉だ」と思っても、それを認識してない場合が多いので注意が必要です。

初めに述べたように、患者さんは人目に過敏な方が多いので、親の大学に行ってほしい、自立して欲しいという「普通」の期待を、「絶対こうしなきゃダメと親は思っている」「親の言うとおりにしないと嫌われる」と強くとらえている可能性があります。

このような場合には、「普通」以上に本人の意思を尊重し、また親とは別の生き方を認める事が大切です。本人が自分の意思を言うまで、ゆっくりと待ちましょう。

わがままだと感じる場合も、自分の意思が言えるようになったととらえて、尊重してみましょう。「あなたにはあなたの生き方、幸せがある。」「親の期待に沿って生きる必要はない」と患者さんにはっきりと伝わる事が大切です。

放任?

家族会にいらっしゃる親御さんの中で、一般的に「育児放棄」といわれるような、悪質な放任をされていた方はほぼ皆無といってよいと思います。

むしろお子さんに愛情を持って、教育にきちんと手をかけてらっしゃる方がほとんどだと感じます。

しかし、患者さんは、「親に構ってもらえなかった」「親は私に関心がないのだ」と感じ、傷ついていることがあります。なぜでしょうか?

幼いころの患者さんは、一見手のかからない良い子に見えます。また、他のきょうだいの我が強いなど、他の問題で親が大変だと感じると、迷惑をかけないようにと、ますます親に甘えず、良い子になろうとします。

一見問題のない子なので、誰も本人の無理に気が付きません。そうして結果的に、患者さんは、親にとって自分は、他の問題より自分の優先順位が低い、愛されていないと感じてしまうのです。昔から自立した子供で、発症したとき「まさかこの子に限って」と感じた方は、このタイプかもしれません。

このような場合は、心のつながりを作りなおすことが大切です。初めは過保護・過干渉になっても構いません。親に甘えられるようになることが大切なので、子供がえりを許し、できるだけスキンシップをとりましょう。

「あなたの無理に気が付かなくてごめんね。」「手をかけられなくてごめんね」「あなたがとても大事だよ、大好きだよ、愛しているよ」と、向き合って伝えてみて下さい。

家族にできないこと

最後に、家族にできないことは、この2つです。

① 食行動を直接コントロールすること。

体重を増やすこと、過活動、過食をやめさせることなど、摂食障害の症状を直接コントロールすることです。これは、病気の症状で、家族が直接どうこうできる事ではではありません。本人を安心させてあげるなど、間接的な対応ならしてあげられます。

② 本人の人生をコントロールすること。

病気からの回復や成長を手伝うことはできても、本人の人生を親の思い通りにコントロールすることはできません。自分の理想と相手の理想は違い、親が考える子供の幸せと、本人が幸せと感じることも違います。