摂食障害の患者さんを回復に導く対応では、「良い点に気付くこと」と「ほめること」が重要です。その理由は、それが患者さんの「自信」を育て、回復につながる良い行動を増やす効果があるからです。
良いことを見つけること、ほめることには、様々な良い効果があります
・気分が明るくなる
・自信がつく
・ほめられた行動をもっとやりたくなる…etc
摂食障害Q&Aでは「自信」について話ました。自信には大きく分けて二つの側面があります。
一つは、あるがままの自分を受け入れて愛して肯定すること(自己肯定感)、もう一つは自分の能力や決断に確信を持て、何かを達成する能力があると感じること(心理学では自己効力感と呼びます)です。
摂食障害になる患者さんには、この自己肯定感が少なく、ありのままの自分を認めることができずに苦しんでいます。自己肯定感を育てるには、周囲に認められること、ほめられることが重要なのです。
不完全さを許容するほめ方‐自己肯定を促す
患者さんは、自分に厳しい方が多いので、少しのことをほめても喜ばないかもしれません。また、失敗すると必要以上に自分を責めることが多いものです。
そんな時は、「確かにあなたは○○だけど、それでも私はあなたが好き」「確かに失敗だったけれど、たまに失敗する方が魅力的だよ」と不完全でもあなたのままでよいのだということを、伝えてください。
「注目」は最も大きな賞賛になる
ほめると「そんなことぐらいでほめられるなんて馬鹿にされている!」「当たり前だもん」と反発されることがあります。そんな時は注目することで賞賛を伝える手もあります。
「~して偉いね」など言わなくても、とにかくあなたに注目している、あなたの良い面や良い行動に私は気が付いたよ、と伝えてあげることが十分なほめ言葉です。
美容院に行った後「髪切ったんだね」と気が付いてもらえるとうれしいように、「いつのまにか食器洗ってくれたんだ」「いつもよりちょっと顔色が良いね」などと指摘されることは、大げさにほめられるよりうれしかったりします。
ほめることの基礎は、「良い所に気づくこと」「良いところを伸ばすこと」
回復のための良い行動を増やすには、進歩した点に気づき、本人にも気づかせることが重要です。「○○できてよかったね」のように行動を具体的にほめることが大切です。
また、本人が気づいていない良い点を指摘してあげることも重要です。そして、回復にとって望ましい行動は、たとえ世間的にほめられることではなくても、積極的にほめましょう(例:上手に手を抜けるようになった、自分の意見(わがまま)が言えるようになった)。
良い点やほめるべき点を見つけるコツは、「病気になる前」と比べるのではなく、「もっと調子の悪かったころ」と比べることです。
感謝の気持ちを伝えたり、自分に与えた良い効果を説明することも大切
「○○してくれてうれしかった・助かった」、「あなたと○○できて楽しかった」というのも素敵なほめ言葉の一つです。自分が誰かの役に立てたと実感できることも、自己肯定感につながります。
よくないほめ方は?
ただし、逆効果なほめ方も存在します。
お世辞
心に全くないこと、根拠のないただのお世辞はよくありません。1を10にして伝えるのは、私(小原)はよいと思いますが、全く心にないことをいうことには反対です。
たいてい患者さんは気が付きますし、ほめた人が何を求めているか(たとえばお母さんはどういうことが好きでどうすると嬉しいか)が分からなくなり混乱してしまいます。
たとえ回復のためによいと言われることでも、自分が全くそう思わないなら言わない方が良いと思います。自分が少しでも良いと思えてから口にした方がいいです。
おだて
「あなたはいい子だから、○○してくれるよね」
こういえば、○○してくれるだろう、と下心を持ったほめ方は、純粋に相手を評価していることにはならず、自信を育てるには逆効果です。下手をすると「○○しないならあなたはよい子ではない」という脅迫になってしまいます。
その他
抽象的でおざなり、心がこもらないワンパターンなほめ方も、よくありません。
伝え方も重要です
行動を改善するには、良い行動をしたがその場ですぐほめることが効果的です。でも、後からでも、気づいたら、メールでもなんでもよいので、伝えないより、伝えたほうが良いです。ちゃんと目を見て、真剣に伝えることも大事です。
また、間接的な賞賛が伝わる配慮をするとよいでしょう。たとえば親戚の口から「○○だってお母さんがほめていたよ」などと聞くのは、直接言われるよりもうれしいものです。
良いところは、ほめるところはちゃんと探せば必ず見つかります
良いところがない、ほめるところがない、何も変わらない…など感じる方もいるかもしれませんが、それでも良いことを目を皿のようにして探し、ほめる技術を磨けば、必ずほめるところは見つかります。
ほめるところがないのは、こちらの物の見方が厳しかったり、技術不足だったりするかもしれません。
かくいう私も、昔は患者さんに「ほめるところが見つからない」と正直思ったことがありましたが、今はそういうことは思いません。
自分の心構えと技術が足りなかっただけでした。良いところに注目する努力をしましょう。そして、言葉にしてきちんと伝えましょう!
自分自身をほめましょう
最後に、子供の良いところを探し、心からほめるには、親が自分の良いところをちゃんと評価し、自分をほめられることが大切だと言われています。
自分を肯定できないと、自分から生まれた子供を肯定するのが難しく、また、親が自分に厳しいと、子供もそれを真似して自分に厳しくなります。
家族会に参加して下さっている御家族の中にも、献身的に、あるいは良い意味でほどほどに患者さんに関わっている方であるにも関わらず、自分が頑張っていることを正当に評価せず、もしくは家族に評価してもらえず自信を持てない方もいるように思います。
家族同士でよくやっていることをほめましょう。そして、自分の努力・良いところも、心の中で大いに認めて、褒めてあげてください。
*家族会では、「良いこと探しとほめること」に関するご家族からの相談に、アイディア・アドバイスを出し合いました。
家族会/2012年第1回ミーティング「良いこと探しとほめること」をご覧下さい。