Q.過食症の症状と対応について?
過食症は、短時間に大量の食べ物を衝動的に食べる発作が起こる病気です。健康人のやけ食い気晴らし食いとは異なり、自分で抑制できずに繰り返します。数千キロカロリーの食品を、しかもいつもは避けている甘く脂っこい食品を短時間で食べます。さらに、大食後は後悔や自責の念にさいなまれ、強い抑制うつに襲われます。
過食は、疲れたとき、心理的ストレスがあるとき、家族が不在のとき、何も予定がないときに起こりやすいという特徴がありますが、習慣になると毎日でも起こります。患者さんは「食べているときだけ何も考えない解放感がある」と、アルコールと同様のストレスの発散と快感を感じています。
しかしやっかいなのは、この患者さんには、「やせていれば自分の価値はない」という痩身や体型への強いこだわりがあり、過食後、過激なダイエットをしたり、嘔吐や下剤で体重の増加を抑えます。
過食症患者は若年女性の2~3%といわれていますが、体重は正常体重なので、本人が打ち明けない限り家族でさえ気づかないことがあります。拒食症と過食症には移行例もあります。
過食は有効なストレス発散方法であり、最初から過食だけを止めることは困難です。過食症では、ストレスと受け取りやすく、ためやすい考え方や物事の認識を変えるようにカウンセリングします。
また、自分の適正な体重を受け入れること、過食を誘導しやすい身体的飢餓を予防する(不規則な食事、過激なダイエット、嘔吐、下剤乱用、過激な運動をやめる)ことと、過食しやすい生活パターン(夜更かし、孤食、暇を減らす)の修正を指導します。また、抗うつ薬の治療もある程度有効です。
Q.拒食症は治りますか?
ごく普通の思春期・青年期の問題を契機に発症し、ストレスへの誤った対処方法の結果ですから、治さなければなりませんし、治ります。
ただ、もともとの性格に病的な偏りがある場合 (人格障害)、家族のサポートのなさや崩壊家族など療養環境が非常に悪い場合は慢性化しやすいといえます。
自身の施設には重症患者さんが多いのですが、「体重と月経が回復して、食の異常によって日常生活が障害されない」を治療と考えると、 5年後の治療率は50%です。残り25%は体重のみ回復して月経がまだ来ない状態です。
20% は通学通勤はできるものの、やせており、偏食や友人と会食できないなどの悩みを抱えて、病気によって社会生活に影響を受けています。残り 5%は、さらに体重が減ったり、社会から退いた生活を余儀なくされています。
Q.拒食症が治るきっかけのようなものがありますか?
本人が体重を回復させるきっかけには、正確な医学情報を聞いたこと( やせていると身長が伸びないという説明を聞いて怖くなったなど) 、体力のなさを実感する経験、就職や進学で体重増加を要求される、入院、無理をせざる得なかった環境が変化して気持ちが楽になった、家族が味方だと実感できるような出来事、親友や尊敬する他人のアドバイスなどがあります。
ある入院した患者さんは、のんびりしてドジばかり繰り返す主治医を見て、「こんな人でも医者をしていけるのだ」と思ったとたん肩の力が抜けて、「できるように、なるように生きていこう」と開き直ったことが、治るきっかけだったという話もあります。
一方、ストレスを適切な方法で対処できるようになることには、一つの出来事というよりは、体験の積み重ねと適切なアドバイスが必要です。学校や社会での出来事の中で、トライ アンド エラー を積み重ねることで、思い込みや深読みを避け、同じことでもストレスと感じることが減り、物事に優先順位をつけて適切に柔軟に対応できるようになります。
「イルカと一緒に泳いだら拒食症が治った」「断食で治った」という記事もありますが、その患者さんには、イルカと泳ぐ、あるいは断食という未知の体験が、それまでのこだわりや認知の偏りを修正するきっかけになっただけで、誰でも同じということはありません。
Q.拒食症が回復していく過程での注意点は?
「体重が増えれば治る」は間違いです。体重が増えると、やせていたときには考えないで逃げていた現実の問題が見えてきます。本人はつらくなってきます。体重が増えたことを手放しで喜んで、本人の心理的なつらさを放置することは厳禁です。
「体重が回復して体が楽になった反面、心理的にはつらくありませんか?」と気遣い、逃げていた現実の問題の解決を手伝う姿勢が大切です。
体重が回復する過程で再びやせる場合や、暴れたり自傷行動など問題行動が始まる場合には、本人は現実にまだ向き合いたくないのです。
摂食障害は本人のわがままでなく、心身症という病気です。心の問題を心で解決できず、体に症状として出るのです。ダイエットが原因ではないものの、「やせていたい気持ち」が病気の本質です。
彼女たちがやせる前に、「私は~で困っているので助けてください」と訴えてくれたらどんなに楽だろうと思います。しかし、彼女たちは自分自身でさえ、困っていることに気がつかない、言葉を捜せない、言っても誰も助けられないと思いこんでいるのです。やせてしまうと、問題はもっと複雑になります。
やせによるおかしな行動や精神症状が病気の主人公になり、本人も家族もその症状をどうにかしようと時間と労力を浪費して疲れ果て、本来の問題はますます見えなくなります。その原因や症状を早期に正しく理解し、家族のサポートなど適切な対応をすれば治る病気なのです。
Q.男性の場合は?
男性患者の場合も、発症は思春期から青年期です。
一般的な性格傾向も女性患者と似ていて、内向的(内弁慶で母親っ子)、強迫的で、几帳面で、男性にしては小心という点も指摘されています。
また、表に出さないものの負けず嫌いで、学業成績もよい場合が多く、理想が高くて失敗をおそれるという傾向も同じです。
やせのきっかけも、思春期~青年期の挫折体験などのストレスや体型へのこだわりが多く、進路の迷いや人間関係のトラブルに対して、誤ったストレス解消方法として過食が出現する点も女性と同じです。
慢性化し長期化すると、家庭内暴力、万引きアルコールへの依存などの問題行動が合併する傾向があるのも女性と同じです。
希望は高いもののコーピングスキルが未熟なために、適切に対処できずに発症するという点もまったく同じです。
ただ、女性に比べて男性は、家事手伝いでもよしとする風潮がないので、本人自身と周囲の回復後の期待が高く、それがむしろ回復の障害になることがあります。