「自信」とは何だろう? 自分に対する自己評価
① 自分自身を受け入れ愛することができること(自己受容)
② 自分を肯定的に見ること(自己肯定感)
③ 自分の決断や能力に確信を持てること(自己効力感)
④ 特定のことを達成する能力があると思うこと(プライド?)
自信には大きく分けて二つの側面があります。
一つは、あるがままの自分を受け入れて愛して肯定すること(自己受容・自己肯定感)
もう一つは自分の能力や決断に確信を持て、何かを達成する能力があると感じること
(心理学では自己効力感と呼びます)
です。
この図のように安定した自己肯定の土台の上に、能力があるという気持ちが乗ってい ると、安定して自信がある人になります。
自信の栄養源
=
愛されているという気持ち
自己受容・肯定感
∔
能力があるという気持ち
自己効力感
「自信がない」がどういう意味で使われているか?
私は、自分が愛されていて、生きていく価値のある人間だとは思えない
私は自分が嫌いで許せない、誇りがもてない
私は、難しいことや意外なことがある人生を、自分の力で生きていけるとは思えない
私は、○○(テストに受かる、バイトを続ける)が失敗なくできるとは思えない
*摂食障害の患者さんは、こぞって自分に自信がないと言います。しかし、その自信がないと言う意味は何でしょうか?それにはいくつかの可能性があります。
自己肯定感がもてない
一つ目は、自己肯定感がもてないという可能性です。
自己肯定感がもてない人は、何かを達成することで自信をつけようとしがちです。
勉強をがんばったり、人に好かれる良い子になろうとしたり、ダイエットをがんばって外見に自信を持とうとします(これが摂食障害の一因にもなります)。
しかし根本の自信である自己肯定感がないので、何を達成しても自信が持てず、失敗におびえ、ちょっとの失敗でたちまち自信を失ってしまいます。
自己肯定感は幼い頃に親しい人に愛された実感を基礎に育ちます。
例えば身体障害や知的障害がある方の兄弟は、例え親がその子を愛していたとしても親が障害のあることにばかり関心があると感じて、自己肯定感を失いがちだと言われています。
親が愛していたかではなく、子どもが愛されていると感じていたかが重要です。
自己肯定感が低い人は、何かを達成することではなく、ありのままの自分を人に愛される体験と、ありのままの自分を肯定することを必要としています。
自己効力感が小さく自分の判断や能力に自信が持てない
もう一つの可能性は、自己効力感が小さく自分の判断や能力に自信が持てない場合です。
自信を持って生きていくには、難しいことや意外なこともある人生を自分の判断に従って、自分の力で何とか乗り切っていけるという感覚が必要です。
この自信を持つには、自分の判断で物事を行い成功することや、失敗しても何とかなったという体験を積むことが必要です。
自分で判断し決断するからこそ、これから自分の力で生きていくことに自信を持てるのであって、人から与えられたレールの上でいくら成功を重ねても、生きる自信にはつながりません。
また、成功より失敗の体験が大事です。患者さんが「自信がない」という時、「全く失敗をせず、人にも迷惑をかけず、100点満点で物事を達成したいけど、それができるかどうか不安だ」と言っていることも多い気がします。
完璧な人間はいないので、こんな自信はそもそも持てるはずはありません。
失敗を何とかフォローしたり周囲の助けを借りたりして、失敗しても迷惑をかけても大丈夫だという安心感を持てることが安定した自信のポイントです。
尚、自己肯定感、自己効力感の両方がない場合は、自己肯定感を育てることが優先です。
現代の女性への圧力と自信のなさ
現代の若い日本人女性は、男性や他国の女性に比べて自信がないという調査結果があります。それもそのはず、今の若い女性には社会から多大な圧力をかけられています。
自立して生きていける女性になりなさい
↓
「○○(大卒・資格・正社員・タフな性格・知的・・etc.)でないと生きていけないよ)」
愛される女性になりなさい
↓
「○○(痩せて・美しく・控えめ・上品・おバカ・・・etc.)でないと愛されないよ」
ファッション誌やテレビ、学校教育の中に上記のような脅しがちりばめられています。もしかしたら親もそれを真に受けて、子供に「○○でないと大変なことになるよ」と脅しをかけているかもしれません。
素直で不器用な子はそれを真に受けてしまいますが、矛盾に満ちた脅しなので、全部を達成するのは不可能です。
しかしそれは、ただの脅しや建前で本当ではないのではないでしょうか?
今の日本では本当に大卒の正社員でないと生きていけないのでしょうか?一生自分の収入だけで暮らす女性は何割居るのでしょうか?
これらの脅しをきちんと検討して、本当はもっと安心して生きていける世の中なのだ、いろんな選択肢があって自分らしく生きれば大丈夫なんだと子供に伝えてあげる必要があると思います。
自信のプラスとマイナス
自信があること、すなわち自分に対する評価が高いことにはプラス面とマイナス面があります。
女性に選択肢が少なかった時代では、自信がない女性のほうが、勝手なことをせず、人に従うので生きやすかったはずです。今も、生き方によってはそうでしょう。
自信がないことは必ずしも悪いことではなく、よい面もたくさんあることを覚えておいて下さい。ただ、自信がなさ過ぎること、自分を否定的に見ることのマイナス面も知っておく必要があります。
自信がないことのマイナス面
- 自分を否定的にみる→気分が落ち込みやすい
- 自分を肯定的に見られない→自分をアピールできない
- 自分のしたいことができない(わからない)
- 決断ができない・何事にも慎重になる
- 人からの評価が気になり、人の意見・世間からのメッセージに流される
自信がないことにもプラス面がある
- 人から受け入れられやすい
- 人の意見を取り入れる、謙虚である
自信がありすぎることのマイナス面
- 傲慢、人の意見を聞かない
- 向こう見ずなチャレンジをする
- 失敗を人のせいにしがち
自信を育ててあげるために
以下に周りの人の対応と子供の自信の関係、そして子供の自信を育てるポイントをまとめました。
基本
自信の栄養源
=
愛されているという気持ち
+
能力があるという気持ち
身近な人の愛情(無条件のサポート)が自信の基礎を作る
- 「親が愛していたか」ではなく「子供が愛情を感じていたか」
- 行動や成果には関係なく、自分の存在自体を愛された・認められたと感じる体験
- 存在自体を愛されていると思えないと、自信の土台がなく、何を達成しても不安
- 自分の意志や決断が尊重され、行動のチャンスをあたえられてきたか?
- 失敗しても大丈夫だと保障されること、失敗をリカバリーする体験が重要
教育(条件付のサポート)が自信を育てる
- 子供の行動によって、ほめたり叱ったりと与える評価が変わるのが教育
- 人からの期待を達成し、それを賞賛されることで自己評価が上がる
- 甘やかされて育つと、将来的に人から支持、賞賛、愛される機会を失いがち
人格に対して無条件のサポート、行動に対して条件付のサポートが与えられると、安定した自信を持った子供が育つ確率が高い
条件付のサポートのみ=厳しく躾けられた子供
- すばらしいことを達成しても、自己評価が低く、失敗におびえる。存在に自信がない
- 自分の性格や能力に合わない期待をされると、無理に達成しても苦しい
無条件のサポートのみ=甘やかされた子供
- 社会でうまく立ち回ることが出来ず、自分の力で生きていく能力に自信がなくなる
親が子供の自信を育てるためのアドバイス
- 一対一で子供と向き合う時間を作る、抱きしめる、愛していると伝える
- 子供が自分のことを話すのを普段からしっかり聞く(まずは批評をせず、共感的に)
- あなたは他の誰でもない、特別で素敵な愛すべき人間なのだと子供に思わせる
- 子供の良いところを見つけて、それを伝える。ほめる。
- 自分自身の失敗や不安をオープンにし、それを乗り越える姿を見せる、体験を話す
- 親自身が自信がない場合は、自信をつけることに取り組む
- 愛情と教育のバランスをとる(子供の性質によって必要なバランスは大きく違う!)
- 世間の圧力から守り、安心して生きていける世界であることを伝える
自信をつけるための方法
大人になると、自信は親や周囲が与えてあげられるものではなくなります。特に、自己効力感=判断や能力に対する自信は、自分で育てなくてはなりません。以下に自信を育てるための方法を解説します。
基本
自信の栄養
=
愛されていると感じること
+
能力があると感じること
① 自分自身を知る
何が好きか、嫌いか、何がしたいか、何が楽しいか、長所・短所を知る。
どうして最初がこれなのか疑問を抱くかもしれませんが、ありのままの自分を知らないと、そもそも何に対して自信を持てばいいのか分かりません。まずは自分の好き嫌いをはっきり自覚することと、何をすると楽しいか、快適なのかを探るのがお勧めです。
② 自分自身を受け入れる
長所も短所も受け入れる、人にオープンにする
今の自分と仲良くなる努力をすること、自分を愛する努力をすることが大切です。
また、ありのままの自分を人に愛されていると感じるには、怖くてもありのままを見せることからはじめなくてはなりません。
家族や信頼できる人に欠点も含めて、ありのままの自分をぶつけてみましょう。
③ 自分に対して正直になる
自分の考えと判断を尊重する、したいことをする。
④ 行動する(行動無しには自信はつかない!)
・ 小さな目標を持ちそれを達成する
・ 得意な分野、好きな分野のことをする
自信をつけるには、何かを達成し、それを人に認められる体験が大切です。
ただし、それは自分の判断でしたこと、自分が望んだことでないと意味がありません。自分の望むことを行動に移す勇気が必要です。
⑤ 失敗をする・失敗を受け入れる(重要!)
・ 失敗そのものではなく、「失敗するかもしれない」という考えを受け入れる
・ 成功より、失敗しても何とかなった体験が、自分の力で生きていく自信になる
残念ながら何かに成功することで自信が付くとは限りません。より次の失敗が怖くなるだけの可能性があります。転んでも立ち上がった経験こそが自信の源です。
失敗が怖い人は、立ち上がる経験を得るためにわざと失敗をするくらいの気持ちで始めてみましょう。
⑥ 心の中の否定的なつぶやきに反論する
・否定的な認知(全か無か思考・自分に対する非難、達成の矮小化など)を変える
・現実的で、気が楽になり、状況に立ち向かいやすい考え方をする
自信がない人は、いつも心の中で自分を否定する言葉を呟いています。それを変えていくことが大事です。
⑦ 自己主張をする
・上手に自己主張が出来ると、自分の希望が通り、相手に尊重してもらえる
→ 気分が安定して自信が高まる
自己主張のスキルを学び、実践することが大事です
⑧ 人とのこころの繋がりを築く
・ 人に受け入れられ、喜びを共有できるようになると自信が高まる
・ 人と競争する関係ではなく、心が通じ合う関係が大事
人に愛されていることは自信につながります。それにはまず自分が誰か、何かを愛することが重要です。必ずしも身近な人でなくてもかまいません。
例えば自分の好きなサッカーチームやアイドルが活躍するのを見ると、誇らしくなり自信が高まります。自分が好きな集団に所属することも自信を深めます。
⑨人からサポート(愛情・支援・情報など)を受ける、受けられるようになる
人生を自分ひとりの力だけで乗り切る必要はない。得られるサポートは使う
サポートを求め上手になることで、いつでも人の力を借りられると安心でき、なんとか人生を生き抜いていくための自信が付きます。
参考文献:自己評価の心理学-なぜあの人は自分に自信があるのか クリストフ・アンドレ著 紀伊国屋書店 2000年